24歳、独身。
大学の4年間を東京で過ごすも大学生らしい遊びをしてこず、クラブにもいったことがなかった。
そんな僕だが、2月のある日、思い立ち一人でクラブへ行くことを決心した。理由はこのまま夜遊びを知らず人生を消化してしまって良いのか、という漠然とした焦りからだった。
携帯で「栄 クラブ」とググり、ヒットした中からめぼしいところを探そうとした。正直なところ、ネットで検索してみたところでそのクラブの特徴なんて分かりはしない。書いてあった情報は若い子が多い、だとかナンパが多いとかその程度の情報。
クラブ初心者の僕には全くもって関係のない情報ばかりだった。
その中で目についたのが、栄のドン・キホーテのビルに入っているクラブ「ORCA NAGOYA」だった。田舎ヤンキーの聖地、ドンキのビルの上にクラブが入っていることにまず驚いたし、アクセスとしても申し分なかった。
栄についたのは23時少し前、日曜の夜であったため、人は少ないかと思っていたがまだまだ人は多かった。栄のドンキに到着したはよかったが、一つ問題があった。
クラブのあるフロアへの行き方がわからない……。
路頭に迷いながらドンキの前をうろうろすること2、3分。少し露出が高めの金髪ギャル(もはや死語か?)2人組がドンキの左側の空間へ抜けていくのが見えた。クラブに行く客に違いない、そう思った僕は追跡を開始した。ドンキに向かって左手の空間にはエレベーターホールがあり、ギャル2人とともにクラブのあるフロアである11階に到着すると、黒服のお兄さんに免許証を見せることを要求された。そのあたりしっかりしているようだ。
免許証を見せ、入場料を支払い、ドリンクチケットを受け取る。
いざ中までいかん。
大音量でかけられるEDM(この言葉もつい最近知った)。若い男女から感じる熱気がそこにあった。
とりあえず、バーカウンターまで向かい、コークハイをもらう。
様子を見ていると、だいたい来るのは男女共に2、3人程度のグループで来る人が多いようだ。1人というのはまずいない。また男女混合でのグループもほぼいないように見受けられた。客層はおそらくは20代前半の女性が最も多く、上は30代前半までといった感じだろうか。大学生や専門学生くらいに見える若い子が多い印象だった。
そして、そこここで行われるナンパの数々。誰彼構わず声をかけ続ける男たちとあしらう女たち。欲望渦巻く男女の心理ゲームがそこにはあった。そのまま男たちに連れられ、場所を移動する男女グループを横目に、クラブの底知れない闇深さを感じた。
2杯目のコークハイを片手に周囲の観察をすること1時間ほど。DJの前、一番最前列で踊る集団にも混ざらず、中ほどから後方にかけての間でナンパをするわけでもなく、端のほうで、ただじっと眺めていた。その中でこの空間が遠い昔経験したことがある空間とダブって見えてきた。
夏の夜、じんわりと汗ばむTシャツを体に貼り付けながら向かった神社。鳴り響く祭囃子の音。
クラブは盆踊りなのだ、と僕は悟った。
一段高い場所で場に音楽を提供するDJは、祭り櫓の上で太鼓を鳴らす人。
最前列で手を振り上げ踊る若い女性は、櫓の周りを取り囲む踊り子たち。
古い歴史の中で、盆踊りは性の解放のきっかけの場であり、村社会の中では未婚の男女の出会いの場に留まることなく、盆踊りの場を契機に乱交なども行われていたとする話もあり、現代のクラブでのナンパと同じことむしろそれよりも性的な要素が高いことが盆踊りの中でも行われていた。
村的な結びつきが弱まった現代において、クラブは毎晩繰り広げられる祝祭の空間、盆踊りの空間として存在しているのである。当然クラブには盆踊りのように死者を供養する祈りの要素はないが、熱狂は場に宿っているように感じられた。
ただ傍観していただけでクラブの熱に当てられ、クラブの係員以外誰とも話すことなく、また踊ることもなく、クラブをあとにした僕は近くにある漫画喫茶で始発までの時間、ヤングジャンプで連載中の源君物語(セックスの教材としてうってつけ)を読みふけり、夜を明かしたのであった。